フレディとマイケル・その2
意外に思う人もあるだろうけど、フレディって本来は凄くシャイでおとなしい人だったんですよね。他人に気を遣うわりには本人は警戒心が強くてなかなか本心を見せない、内向的なロマンチスト。
ああ見えて、実は「俺様」キャラではなかったことは、クイーンの他のメンバーもインタビューでよく言っています。
そこで、パールシーの良家のおぼっちゃんでシャイで内向的なファルーク・バルサラは、演じることにしたのです。「フレディ・マーキュリー」という強大な怪物を。
70年代の初めの頃はまだなんとなく初々しくてぎこちないところもあったけど、たぶん、演じているうちに本人もだんだんノリノリになって来ちゃったんでしょう。
カート・コバーンとの決定的な違いは、フレディは自分が「フレディ・マーキュリー」であることを、たまには疎ましく思っても、基本的には大変気に入っていた、という点だと思います。
1980年代の初め、クイーンのアメリカツアーの楽屋に、当時フレディと親しくしていたマイケル・ジャクソンが遊びに来ました。
折り悪く?クイーンのアメリカツアーを取材していたマスコミにつかまり、マイケルは尋ねられました。
「『マイケル・ジャクソンはクイーンファンである』と言ってもいいですか?」
マイケルはこう答えました。
「僕はフレディ・マーキュリーのファンだよ」
ひとしきり談笑して、フレディが「さあ、行くぞ!」とオーディエンスの待つステージに向かう、その後ろ姿を見送りながら、マイケルは取材記者につぶやきました。
「君には判らないかもしれないけど…僕がどんなに彼をうらやましく思っていることか」
(…前回の記事同様、これもソースが「私の記憶」なんです、すいません。80年代前半のマイケルのインタビュー集か何かあれば、たぶん見つかると思うんですけど…)
このフレディの、どこの美容室でカットしたのか小一時間問い詰めたいようなとんでもねぇ髪型は「Play The Game」の頃なので1980年。
80年6月の「The Game」全米ツアーの時の写真だと思います。ちなみに、クイーンのギタリスト、ブライアン・メイが自身のオフィシャルサイト brianmay.com で言ってた、マイケルがクイーンの「Another One Bites the Dust(地獄へ道づれ)」のシングルカットを勧めてくれたというのも、この時。
(余談ですが、フレディはその外観、髪型やひげなどで年代がとてつもなく判りやすい人です。ぱっと写真だけ見せられて「いつ頃のフレディだ」ときかれたら、たぶんファンなら1年くらいの誤差で年代を答えられる)
だから写真のマイケルは22歳。79年に出たアルバム「Off The Wall」がロングヒットしていた頃。「Thriller」が出る2年前のこと。
フレディは34歳。…これでも34歳!
79年の末に、先行シングル「Crazy Little Thing Called Love(愛という名の欲望)」で黒の皮ジャン着てプレスリーばりのボーカルを聴かせた後、6月にアルバム「The Game」が出て何を思ったか突如ひげオヤジになった頃。
でもマイケルは、フレディの何が、そんなにうらやましかったのかな。
これはあくまで私見なんですが、私はなんとなく、フレディが「フレディ・マーキュリー」というToo Much なモンスターを楽々と乗りこなしていて、しかもそれを彼自身が心から楽しんでいるように見えるところ、なんじゃないかな、という気がするのです。
フレディの本質が、シャイで人のいいロマンチストなことは、敏感なマイケルにはきっとすぐに判ったことでしょう。そんなフレディが、ステージの上ではまるで暴君のごとく君臨し、「俺たちは世界のチャンピオンだ!」と数万の聴衆に向かって胸を張って歌い上げる。あんな歌、「フレディ・マーキュリー」じゃなきゃとても歌えない。
どうやったらそうなれるんだろう。
どこか恥ずかしげな笑顔の、「Off The Wall」の内気で優しいマイケルはそんなふうに、不思議に思ったのかもしれません。「素」のフレディを知れば知るほどに。
もちろんいろんな説はありますが、私は、マイケルがフレディから受けた一番の影響は、音楽性云々よりもこの
「スーパースターのマイケル・ジャクソンを演じる」
ということだったんじゃないだろうか、と思います。それが証拠に、その後「Thriller」以降のマイケルの演技っぷりと来たら、それはそれは見事なものではないですか。
ただ「人々が望むマイケル・ジャクソン」を演じ続けるマイケルは時折、痛み、というか悲痛なものを内抱しているような気がします。きっと根が生真面目な人なんだろうなぁ。
もしもフレディがもっと長く生きて、90年代2000年代のマイケルを見たらなんと言ったかな。
「ダーリン、もっと肩の力を抜いて気楽にやろうよ」
そんなふうに、マイケルに笑って言ってあげられたかもしれない、50歳になったフレディなら。
(注:フレディの「ダーリン」は友達に呼びかける時の口癖みたいなもので、深い、もしくはヤバい、意味はありません…)
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